こんにちは。ブランドリユース事業をはじめ11年、日本と香港のマーケットを最前線で見続けてきました。
現在、ブランドリセール業界では非常に興味深い、かつてない「逆転現象」が起きています。それは、「香港の中古ブランド相場が下落し、相対的に日本の方が高値になっている」という事実です。
「香港は無税だから安く買えて、高く売れる場所」というこれまでの常識が、今なぜ覆されているのか。コロナ禍の特殊な盛り上がりと、現在の円安がもたらした衝撃を徹底解説します。
1. コロナ禍の香港:世界から隔離された「内需バブル」の熱狂
まず、数年前のコロナ禍を振り返ってみましょう。実は2020年から2022年にかけて、香港の中古ブランド市場は「過去最大級のバブル」に沸いていました。そこには、他国とは異なる二つの特殊な事情がありました。
① 行き場を失った富裕層の「国内消費」
当時、香港は厳しい渡航制限により事実上の「鎖国」状態にありました。カジノ、海外旅行、海外不動産投資。これら全てが遮断された香港の富裕層にとって、唯一の楽しみが国内でのショッピングでした。供給が細る一方で、国内の需要だけが異常に膨れ上がり、相場は世界標準を無視して急騰しました。
② 将来への不安が生んだ「現物資産化」と「現金化の準備」
さらに重要だったのが、社会情勢の変化に伴う将来への強い不安です。 「今のうちに資産を形(モノ)に変えておきたい」という心理と同時に、「いざという時に世界中で即座に現金化(換金)できる資産を持っておきたい」というニーズが爆発しました。
ロレックスやエルメスのバーキンは、香港の富裕層にとって単なるファッションではなく、「持ち運び可能な外貨預金」のような存在となったのです。この「資産をいつでも現金化できる状態にしておきたい」という切実な守りの姿勢が、皮肉にも中古市場の取引を活性化させ、さらなる相場上昇を招くという熱狂状態を生み出しました。
2. コロナ明けの衝撃:内需の崩壊と「円安」の直撃
しかし、2023年に渡航制限が解除され、世界が動き出すと状況は一変しました。さらに追い打ちをかけたのが、歴史的な「円安」です。
香港ドルは米ドルと連動する「ドルペッグ制」を採用しています。そのため、円安ドル高が進むことは、同時に「円安・香港ドル高」を意味します。これが、香港市場の優位性を根底から崩しました。
- 買い手の日本流出: 香港のコレクターやバイヤーは、もはや香港国内で買い物をしなくなりました。香港ドルが強すぎるため、日本に来て中古品を買う方が、航空券代を差し引いても圧倒的に安いからです。
- 「日本=世界一安い市場」の誕生: 世界中のバイヤーが「日本買い」に動いた結果、日本の在庫は枯渇し、国内の買取・販売相場はどんどん上昇しました。対照的に、買い手を失った香港のショップは、在庫を動かすために相場を下げざるを得なくなりました。
3. 現在の「逆転現象」:なぜ今、日本の方が高いのか?
多くの人が驚かれるのが、「今や中古ブランド品を売るなら、香港より日本の方が高いケースが多い」という現状です。
- 日本市場の強み: 円安の影響で、海外バイヤーが日本のオークションに殺到しています。彼らが競り合うことで、日本の卸相場(B2B)は世界最高水準まで押し上げられています。
- 香港の苦悩: 香港のショップは、コロナ禍に仕入れた「高値の在庫」を抱えています。しかし、現在の「円安・日本安」の状況下では、その価格では誰も買いません。結果として、今の香港相場はコロナ禍のピーク時から数段下げた位置にあります。
かつては「日本で仕入れて香港で売る」のが鉄則でしたが、今は「香港から日本へ商品を戻して売る」、あるいは「香港の富裕層が日本へ買いに来る」という、まさに180度の逆転が起きているのです。
まとめ:常識が通用しない今、資産を守るために必要なこと
マーケットは生き物であり、昨日の正解が今日の正解とは限りません。コロナ禍の「内需バブル」は移動制限と将来への不安が生んだ一過性の熱狂であり、現在の「円安」がそのバブルを完全に弾き飛ばして、日本と香港の力関係を逆転させてしまいました。
リユース業をはじめて11年、この業界を見てきた私からお伝えしたいのは、「香港の方が高い」という過去の固定観念を、今すぐアップデートすべきだということです。
- 売却・運用を考えている方へ 現在、世界中のバイヤーの視線は日本に集中しています。為替マジックとインバウンド需要が重なっている今こそ、日本国内の二次流通市場は「空前の売り時」を迎えています。「海外の方が高く売れるはず」という思い込みで、香港市場に期待しすぎるのは今の情勢ではリスクでしかありません。
- 購入・コレクションを考えている方へ 香港ドル高の今、香港での購入は極めて割高な投資となります。むしろ、世界中から高品質な在庫が円安を求めて集まってきている日本国内で、信頼できる店舗から「日本円」で納得のいく個体を探すのが、現時点で最も賢明な資産防衛と言えるでしょう。


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